続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

この時、大和が葛野親子に、あえて周囲に聞こえるような声で教えてやった。

 
「ご存じですか、葛野社長? 西園寺の婚約者の父親は、あのHope Medical Japanの代表取締役、ジョセフ・ヴィッテルスバッハ氏ですよ。彼は愛妻家で、3人の愛娘を溺愛していますからね。その彼女が、そちらの息子さんにこのような暴力的な扱いを受けたと知ったら……」

 
その言葉に、葛野社長は真っ青な顔で息子を振り返る。


追い打ちをかけるように、周囲の招待客たちもざわつき始めた。

 
「この親子、もう終わりね……」

「西園寺社長の婚約者さんの手首、見た? 真っ赤になってた。かわいそうに」

「日の目は見ないな、こりゃ」

 
いたたまれなくなった葛野親子は、俺と婚約者に何度か頭を下げ、逃げるようにして会場を後にした。





控え室のスイートに戻った俺たちは、すぐに婚約者の手首をカメラで撮影し、あとで葵に診断書を作ってもらい、涼介に提出を頼むことにした。

 
あの2家族……、やはり、絶対に許せない。

 
手当てを受ける婚約者を、少し離れた場所から見守っていると、背後から肩を叩かれた。

 
振り返れば、そこには玄士叔父さん。


「お前はよくやった。あとはこっちに任せてくれ」

 
そう言って、片口角を上げて笑う顔は、久しぶりに見る“悪い顔”だった。隣にいた涼介も、まったく同じ顔で頷いている。


ああ、もう完全にスイッチ入ったな。後はこの2人に任せておけばいい。





やがて、ジョセフさんと久美子さんもスイートに戻り、婚約者に今回の件を詫びた。


だが、婚約者は小さく首を振り、むしろ微笑んで感謝の言葉を返した。

 
「君がセキュリティーを強化してくれていたおかげで、大事にはならなかった。……、娘を守ってくれてありがとう」





後で彰人から聞いた話だが、女性陣の間では、『西園寺社長が婚約者を一途に想い続けてきた話がまるでおとぎ話みたい』と盛り上がっていたらしい。

 
一方、男性陣の間では「『美人な婚約者に近づこうとした男がいたけど、あの西園寺社長の一瞥で引き返してた。あれは“次やったら消す”って目だったよ。……、本気でやるタイプの』、そんな話がまことしやかに囁かれていたそうだ。





ようやく、このパーティーが終わった。次は、1週間後のオープンと、1か月後の結婚式。もう、婚約者と“こそこそ”する必要なんて、どこにもない。