続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

葉子ちゃんの意味深な言葉が気になりつつも、仁が用意してくれた静かな客室へと、美愛ちゃんと2人で向かった。

 
部屋に入るなり、俺たちは並んでソファに腰を下ろす。すると、美愛ちゃんは、すぐに小さく声を震わせながら口を開いた。

 

「ご、ごめんなさい……。ずっと言いたかったのに……、どうしても言えなくて。今日は雅さんにとってすごく大事な日なのに、ちゃんと支えてあげられなくて……、ずっと、嫌な態度ばかりで……。私、本当に……、最低だよね」

 
いきなりの謝罪。けれど俺には何のことか、正直ピンとこない。

 
……ってことは、俺が何かしたわけじゃなかったってことか?ふぅ、よかった……、いや、マジで。心臓がもたないって。

 
「……、どういうこと?」

 
そう促すと、美愛ちゃんは目を伏せながらぽつりぽつりと話し始めた。

 
また、不安になってしまったこと。そしてわかってはいたけれど、今日みたいに大勢の前で婚約を発表するのが、どうしても“見せ物みたい”に感じられて苦しかったこと。

 

そうだよな……。美愛ちゃんはもともと、華やかな場や注目を集めるのが苦手な子だ。バーやクラブどころか、賑やかなカフェだって少し躊躇するような、繊細な子。

 
俺だけが見ていたい。本当は、誰にも渡したくない。いつだって、俺の腕の中に閉じ込めておきたいくらいなんだ。

 
でも、それは現実的に無理な話。

 
俺は西園寺家の人間で、会社を経営している立場。社員たちの生活を背負っている以上、公の場に出る機会はどうしても避けられない。これからも、夫婦で参加しなきゃいけない場面は多いだろう。

 
もし、そんな生活が彼女を苦しめるのなら……。
──彼女の幸せのために、手放すべきなのか……? 

 
そんな考えが頭をかすめた瞬間、美愛ちゃんが精一杯の声で気持ちを吐き出してくれた。

 

「あ、あのね……、私……、圭衣ちゃんやようちゃんみたいに頭が良いわけでもないし、
母さまみたいに特技があるわけでもないの。
だから、雅さんの足を引っ張るだけじゃないかって、ずっと不安だった。でもね、私……、誰よりも雅さんのこと、好き。
1番、愛してるの。だから……、お願い、です。何の役にも立てないかもしれないけど、頑張るから……。これからも、そばにいさせてください……」

 
……、もう、たまらない。

 
今にも泣きそうな顔で懸命に訴えるその姿が、可愛くて、健気で、愛おしくて……、俺の心に、ズドンと響いた。

 
もう二度と、こんな不安を抱えさせたりなんかしない。この子の心の奥まで、ちゃんと包んで守ってやりたい。

 
「……、バカ。何言ってんの」

 
俺は彼女をぎゅっと抱きしめる。

 
「美愛ちゃんじゃなきゃ、意味がない。俺は、君じゃなきゃダメなんだよ。君が人前に出るのが苦手なこと、ちゃんと分かってる。
でも、俺は社長で、会社を背負ってる立場だから……、どうしても公の場に出ることは避けられない。夫婦として、これからも一緒に出席しなきゃならないこともある。それでも……、それでも、俺は君を手放したくない。お願いだ、これからも、俺の隣にいてくれるか?」

 
少し潤んだ瞳で、彼女はコクン……、と頷いた。そしてそっと近づいてきた美愛ちゃんを、俺はもう一度、強く抱きしめ、熱く、甘く、深く、キスを交わした。

 
俺たちはもう、離れない。