広い玄関の引き戸を開けて中に入ると、奥に広がるT字型の廊下がある。


「ただいま」


雅さんが言うと、右側から物凄い勢いで走ってくる音が聞こえた。しかも、複数の人の足音? 足音が近づくにつれて、聞こえてくる会話。


「お前たち、抜け駆けするなよ!」

「俺が先だ!」

「私だよ!」

「みんな、どいて!」

「おい、押すなよ!」


運動会を思い出させるこの状況に何が起きているのかわからず、思わず雅さんの腕を掴むと、彼はいつものように抱きしめてくれた。


「ごめん、びっくりしたよね? しかし、なんであいつらまでいるんだよ、まったく」


ギャーギャー言いながら走ってくる5人の大人たちが見える。


「おい、お前ら、美愛ちゃんが怖がっているだろう? 30を過ぎたいい大人たちが、何をやっているんだよ!」

「お、俺が長男だから出迎えるって言ったら、こいつら走り出しやがった.......ハーハーっ、ひ、久しぶりだね。いらっしゃい......」


息を切らしているのは京兄さまと他の4人。

私が知っているのは、京兄さまと大和副社長。

えっ、なぜ副社長がここに?

それに、皆さんはなぜダッシュしてきたの?


「お、お久しぶりです、京兄さま。えっと、こんにちは、副社長?」

「ハーハーっ、美愛ちゃん、僕の呼び名覚えてるよね? 今日は副社長じゃないからね。さあ、呼んでみて!」

「や、大和兄さま......」

「えー、俺も呼んで。俺は大和の兄、悠士。ねえ、呼んでみてよ!」

「えっと......悠士兄さま?」


ここで痺れを切らした雅さん。


「お前たち、いい加減にしろよ!」

「えー、僕も呼んでもらいたいな。僕は彰人。葵ちゃんの婚約者なんだ。よろしくね。僕のことも呼んでみてよ」

「は、はじめまして、彰人兄さま」

「私は葵。雅の双子のお姉ちゃんよ。私のことも……」


ここで雅さんが私の手を取り、さっさと廊下を進んでいく。


「ちょっと雅、私、まだ呼ばれてないわよぉー」


後ろから叫んでいる葵さんを無視して、長い廊下を進んだ。


「恥ずかしいものを見せちゃったな。うちではこれが普通なんだよ。3人兄姉だけど、大和と悠士兄は小さい頃から兄弟のように育ってきたんだ。彰人ともそうなんだ。今日はまだ仁と涼介がいないから静かな方だけど、いつもみんなが揃うとこうして騒がしくなる」

 
苦笑いを浮かべる雅さんに、私も言った。


「人数は少ないけれど、うちも同じでしょう? 特に母さまと圭衣ちゃん」


私たちは顔を見合わせて笑った。