自宅に戻り、少しだけ書斎で仕事をすることにした。

 
まずは、大和から届いたメッセージを確認する。添付されたカフェBon Bonのユニフォーム案に目を通すと、思わず小さくうなずいた。


ライトブルーのストライプシャツにブラックのパンツ。首元には赤いスカーフがあしらわれ、仕上げにダークブルーのエプロン。フランス国旗の“トリコロール”を見事に取り入れている。

 
さすが、圭衣ちゃんらしいセンスだ。

 
ちょうどその時、大和から電話がかかってきた。

 
「雅、デザイン画は見た?」

「見た。これで決まりだな。圭衣ちゃんに連絡、頼む」

 
明日はいよいよ、社内で正式な発表を行う日だ。


カフェBon Bonのオープンに加え、オンライン販売の開始と、オリジナルハーブティーセットのリリース。そして、美愛ちゃんとの婚約・結婚についても、皆に伝える。

 
「了解。圭衣ちゃんに伝えとくよ。ところでさ、明日の発表のことで、ちょっと気になることがあるんだけど……、お前、社内のファンクラブの存在、知ってる?」

 
大和の声が、わずかにトーンを落とす。こいつがこういう口調になる時は、大抵“警戒モード”だ。ファンクラブ? なんの話だ。

 
「……、誰のファンクラブだよ? 女優? それともアイドルか?」

「はあ……、頼むよ雅。もう少し社内の空気、気にしてくれって。そのファンクラブってのはお前のだよ。お前のファンクラブ。マジで知らなかったのか?」

 
冗談かと思ったが、大和の真剣な口ぶりに思わず黙る。


「うちの会社にはな、お前とか、僕とか、あとイケメン部長たちのファンクラブが存在してるんだよ。まあ、普通に考えれば“微笑ましい社内カルチャー”で済むけど、佐藤麻茉の件もあったしな。明日、発表が終わったら、美愛ちゃんを1人にしないように気をつけてくれよ。俺もサポートするし。……、圭衣ちゃんと葉子ちゃんに、後で刺されるのはゴメンだからさ」

 
大和は軽く笑いながら言ったが実際、美愛ちゃんに何か起きたら、俺たち2人は本気で“処される”だろう。あの姉妹の“愛”は、並じゃない。

 
大和と連携を取り、今日中に部長たちへもメッセージを送るよう頼むことにする。
万全の体制を整えておくのに越したことはない。

 
そういえば、書斎に来る前。
夕食後に話があると美愛ちゃんに伝えたとき、彼女が一瞬だけ表情を曇らせたのを、俺は見逃さなかった。


旅行中は、あんなに楽しそうだったのに。
あの笑顔を曇らせたのは──何だ?