続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

温泉旅行からマンションに戻ったあと、雅さんは書斎で仕事を始め、私は洗濯機を回しながら、ロボット掃除機に床を任せていた。


マンションに着いたとき、『夕飯のあとに話がある』と言われた。以前にも、同じようなことを言われたのを思い出す。


あのときは……、確か、佐藤麻茉さんが社内メールで私のことを誹謗中傷した件だったよね? 今回は、一体なんだろう……?


私は、いつもの癖でついネガティブに考えてしまう。

 



初恋の雅さんと両想いになって、婚約までしたけれど、どこかでまだ自分に自信が持てない。


雅さんは“慶智の王子”のひとりで、いつだって女性たちから注目を集めている。対して私は、何の取り柄もない地味な女の子。


そんなことを考えながらお風呂掃除を終え、スーパーのお惣菜で簡単な夕飯をすませた。

 



そのあとソファに移動すると、雅さんがゆっくり口を開いた。

「明日の朝、会社のみんなに俺たちのことを発表しようと思う。ちょうどカフェBon Bonとネット販売の件も話す予定だから、まとめて伝えたくて。……、いいかな?」

 
驚いて、すぐには返事ができなかった。

 
雅さんは社内でも、大和副社長と並んで人気があり、ファンクラブまであると聞いたことがある。いずれ一般にも公表されることは分かっていたけれど、私の覚悟がまだ足りないのかもしれない。


また、あのときのように。
佐藤麻茉さんの時のように。
誰かに責められるのが怖い。

 
左手でいつものようにネックレスのチャームを探そうとして、つけていなかったことに気づいて、ハッとした。

……、そうだ。婚約指輪を受け取ったあの日、『これからは、もっと雅さんを頼ろう』って、2人で話し合って決めたんだった。

 
うつむいたまま何も言えないでいる私の手を、雅さんがそっと取る。そして、彼の膝の上に座るように、優しく導かれた。


「何が不安なの? 俺に話してみて」

 
雅さんは、いつだって私を焦らせたりしない。こうして静かに待っていてくれる。

 
そのとき、ふいに非常識いよりの言葉が頭をよぎった。


『西蓮寺家の嫁としてやっていけないわよ』
『この子は本当に西園寺家に相応しいの?』


この“西蓮寺家”の部分を“雅さん”に置き換えると……、まさに今、私が思っていることと重なる。

 
『雅さんの嫁としてやっていけないわよ』
『この子は本当に雅さんに相応しいの?』

 
……、あれだけ啖呵を切ったのに、なんだか自分が情けない。非常識いよりは、こうなることを最初から分かっていたのかな?

 
でも、もうこれ以上、雅さんを待たせちゃだめだよね? ……、なのに、何も言えない。どうしよう。

 
頭の中が焦りでパニックになりそうな私を、
雅さんはそっと、いつものようにやさしく抱きしめてくれた。