続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

みんなが集まるリビングに入ると、祖父母──じいちゃんとばあちゃんが、すでに席について俺たちを待っていた。


「ただいま、じいちゃん、ばあちゃん。今日は紹介したい人がいてーー」

 
俺がそう言いかけると、美愛ちゃんが丁寧に頭を下げる。


「初めまして。花村美愛と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」

 
うん、美愛ちゃんの挨拶は完璧だ。しっかりしてる。けれど、その大事な最中に、またしてもやらかす奴がいた。

 
「ねえねえ、私のことも呼んでみて♡」

 
……、やっぱり、葵かよ。


美愛ちゃんの腕をひょいっと引っ張った拍子に、彼女の体がぐらりと傾き、そのまま椅子にふにゃっと倒れ込んだ。

 
「おい、葵! 何やってんだよ! 今日がどういう日か分かってるのか!?」

 
抗議の声を上げる俺に、葵はケロッとした顔でこう返してきやがった。

 
「少しぐらい、いいじゃないの。あら、東縛(とうばく)する男は嫌われるわよ~?」

 
──いや、意味わかんねーし!


それでも、これがいつもの“葵流コミュニケーション”だと分かっているのに、まんまと乗せられてしまった俺。気づけば、美愛ちゃんを真ん中に、葵と俺の間で火花バチバチの口論が始まっていた。

 
「おまえ、今日ぐらいおとなしくしてろよ!」

「やだぁ、心配しすぎじゃないの? 雅、意外と過保護~♡」

 
美愛ちゃんは、そんな俺たちのやりとりに戸惑って、きょろきょろおろおろ。


まるでバレーボールの球になった気分なんじゃないか?

 
「お前たち、やめないか!」

 
そのタイミングで、ドアの向こうから父さんの渋い声が響いた。

 
「まぁまぁ、久しぶりにみんなが揃ったと思ったら、またケンカ? ほんと、仲良しねぇ〜」

 
続いて母さんが、穏やかな……、いや、ちょっと呆れたような声で笑いながら入ってきた。手にはコーヒートレー。父さん、悠士兄、彰人までが一緒にそれを手伝っている。

 
両親が俺たちの向かいに腰を下ろすと、改めて美愛ちゃんが自己紹介をしたその瞬間だった。


父さんと母さん、まるで漫画みたいに目を見開いて、口をぽかんと開けたまま固まってる。

 

──……、ん? なんだ、そのリアクション。

 
「えっ、もしかして父さんと母さん、美愛ちゃんと知り合いなの?」

 
俺が不思議に思って尋ねると、隣にいた美愛ちゃんが、ポツリとつぶやいた。

 
「マスターと……、ママさん?」

 
──ん? んんっ?


父さんが、何かに気づいたように目を丸くする。

「……、美愛ちゃんって、まさか……、雅の“あの”美愛ちゃん?」

 
それを聞いた美愛ちゃんは、驚いたように目をパチクリさせながらも、静かにうなずいた。

 
そして、次の瞬間。

 
「このバカ息子ーーーーっ!!!」

 
ビシィッ!!!

 
母さんの怒気を含んだ声とともに、俺の頭に衝撃が走った。

 
「い、痛いってば! 何でいきなり叩くんだよ!」

「なにって……、あの日、美愛ちゃんを泣かせたの、あなただったのね!? もう! 信じられない!」


えっ……、えっ……、なんの話!? 指輪? バレた? ……、いやいや、ちょっと待て。もう渡したよな、指輪は。今、美愛ちゃんの薬指にはちゃんとある。なら何のことだ──ってか、何で母さん、あんなに怒ってんだ!?