美愛ちゃんに、俺が贈った指輪をはめてもらってから、もうすぐ一週間が経つ。俺たちの関係は、着実に良い方向へと進んでいると思う。「隠し事や嘘はしない」、そう約束を交わしたあの日から、美愛ちゃんは少しずつ、自分の気持ちを言葉にする努力を始めてくれている。


今までの彼女は、自分の思いを表に出すことに慣れていなかった。
「頭の中で考えすぎて、うまくまとまらない」と、何度もそう言っていた。

 
だからこそ伝えた。難しく考えなくていいんだ、と。まずは「うれしい」「こわい」、そんな一言からでも十分なんだって。

 
そしてもうひとつ、俺たちの間には新しい関係が生まれつつある。それは、互いをより深く知ろうとする気持ちと、そっと触れ合う優しい時間。彼女の頬がほんのり赤らみ、潤んだ瞳で見つめてくるその姿に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 
あどけなさと大人びた一面が混ざり合うその表情に、俺は何度も心を奪われる。大切にしたいその想いが、日ごとに強くなっていく。

 



今日は、いよいよ西園寺の実家へ、結婚の挨拶に向かう日だ。
美愛ちゃんは、きっともうキッチンに立って、ドイツの伝統的なパイを焼いている頃だろう。

 
ここ最近、俺も少しずつそのパイ作りを手伝うようになった。
といっても、主な役目は生地を薄く伸ばすことくらいだが、これが意外と難しく、はじめは苦戦した。

 
けれど最近はようやくコツをつかめてきて、下に敷いた模様が透けて見えるほどに、きれいに仕上げられるようになった。
「すごい、上手にできてる!」と美愛ちゃんに言ってもらえた時は、本当にうれしかった。

 
うまくできたことももちろん嬉しい。
だけどそれ以上に、彼女と一緒に過ごせるこの時間こそが、何よりの宝物だと感じている。

 
さて俺もそろそろ、手伝いに行くとしよう。
美愛ちゃんがプレゼントしてくれた、あの黒いエプロンを身に着けて。

 
今日という日が、また一歩、未来へとつながっていく気がして、胸が少し熱くなる。