コンネリシャス王国の  恋物語

セレスはルルの担当になりたいとジュオン王子に願い出たのだ。

「なぜだ」

と一言、ジュオン王子は厳しい眼差しでセレスを射るように見つめて言葉を発した。

「この半年以上もの間 ルル様とチリルと
一緒に生活し二人を守ってきました。
ルル様は私の親友の妹です。
小さなころからフェイレアの妹自慢を
聴いておりました。
ばかなシスコン男だと思っていたのですが
フェイレアの妹自慢はすべて本当の
事でした。自分よりまず周りの人を
思いやる優しさ、どんなにつらい時も
泣き言は言わずいつも明るく笑っています
それは自分が辛い顔をすると周りの人を
心配させるからです。
殿下に会えず寂しくて辛い中でも一度も
弱音や愚痴をチリルにさえ吐き出さず
いつも微笑んで耐えていらっしゃいました。
時々夜に裏庭で星空を見上げて私たちに
気付かれないように静かに涙を流して
殿下の名前をそっと呟いていらっしゃった
のです。お二人には星空の素敵な思い出が
あったのでしょう。
そして、バンアロアの伝染病には毅然と
立ち向かっておられました。
陣頭指揮を執り医者や看護の者にマスク着用
手洗い、うがいの重要性を根気よく
説明していました。
白魔法が使えることを公にするとまた面倒な
ことになるので、私も必死に隠していたの
ですが、ルル様が病室に入っていくと患者が
その姿を見ただけで元気になっていくのです。
ルル様のお姿に手を合わせる人も
たくさんいました。
いつの間にかバンアロアの天使と呼ばれる
ようになったのですが、ルル様は何も
知らなかったと思います。
一人でも多くの人を助けたい、早く楽にして
あげたいという気持ちだけで動いていたのです。
それこそ最初の二週間余りは不眠不休で
白魔法の使い過ぎでふらふらになっていても、
休もうとしなかったのです。
それで魔法切れが起こりそうになると
ルル様の瞳の色が濃くなるのに気づきました。
危険のサインです。
それに気づけたので私がストップをかけると、
回復するまで魔法は使わないように
してくれました。
そんな風に苦楽を共にした方です。
尊敬していますしもう一人の兄としては
フェイレアに負けないくらいの
シスコンになってしまいました。
ルル様の作る料理は本当においしくて
癒されるのですね。
殿下には申し訳ないですが、伝染病が
始まってチルチルに居られなくなるまでは
毎日ルル様の作ってくれる食事やスイーツが
楽しみでした。
そんな訳で兄として妹を見守るような気持ち
になっていました。
ルル様と殿下の婚約が調い王宮での暮らしが
始まればルル様にも護衛騎士がつくように
なると思います。
ルル様はコンネリシェス王国にとっても、
とても大切でかけがえのない方です。
親友の為にも命をとしてルル様を
お守りいたします。
決して邪な気持ちなどはございません。
この身を犠牲にしてでも一生守り抜くと
誓います」

「この八カ月余りルルを守ってくれて
ありがたいと思っている。
本来なら近衛騎士の役目ではない事
だったのだから…
でも実際にはセレスの話を聞いていると
羨ましくて、妬ましい気持ちになる。
俺でさえルルとそこまで身近に過ごした
ことはない。
ルルに接すれば誰でもルルに惹かれて
しまうのは無理もない。
でも、男としてルルを慕っているようなら
身近に置くことはできない。
絶対にそのような気持ちではないと
誓えるのだな?」

「はい、本当に人として尊敬しています。
また兄のような親愛の気持ちです。
決して偽りではありません」

そういってセレスはジュオン王子の前に跪いて片手を立てた足に片手を胸にあて騎士の誓いの姿勢を取った。

今日は騎士服を着ていないので帯剣もしていない。

だから騎士の誓いにしては形が決まっていないけれど、ジュオン王子には伝わったはずだ。

セレスは自分がかなり辛い選択をしたのは自覚している。

愛する人を近くで見守り命を懸けて護衛できるのは騎士冥利に尽きるが、その愛する人が自分ではなくほかの男に愛されて愛を返すのを近くで見ていなければいけない。

想いを顔には出せず心に閉じ込めておかなければならない。

少しでもルルへの想いが溢れ出てしまえばジュオン王子からその任を解かれるだろう。

苦しいが、ルルの近くにいるにはそうするしかない。