ベイビー•プロポーズ


いつもより低めの声が頭上から落ちてきた。


「宮田も桑野も、どうしてもえと話してるの」

 
さっきまで饒舌に話していた名前を呼ばれた2人も、美郷も優弥も、周りのギャラリーも、皆が皆、目をまんまるに丸めていて。笑える状況ではなけど、面白いくらい同じ表情をしていた。


いつも通りの日常を見せられている碧葉はなんてことない顔をしているし、恐らく私の真上の黎も普段通り、無表情を極めているに違いない。


私に至ってはいろんな感情を1周通り越して、すん、と真顔になっている。


もはや抵抗する気さえ起きず、黎に捕獲された状態で皆からの視線を一斉に受けているこの状況。




「すっげえ!これが噂の黎の別人格か」

「まじでベタ惚れじゃんな。うわ、俺なんかきゅんとしたわ」

「うるさい。とにかく、もえは可愛いけど絶対だめ」


黎が碧葉以外の同級生と話す姿は初めて見た。


極度の無気力少年、それでいて授業中も休み時間も寝ていることが多いと聞いていたから、碧葉以外の交友関係があるのか少し心配もしていた。だけどきちんと友人もいるし、普通に会話もできているようで安心だ。


それよりも、黎が私に対する独占欲をここまで表に出すことが驚きだった。