「だめだこれ。萌葉の隣に寝せてやれば」

「いやいや、碧葉の部屋に連れていきなよ」

「おい黎、また1時間後に起こしにくるから萌葉の隣で寝ろよ」

「ちょっと!お姉ちゃんの言うこと無視するな!」


黎の両脇に手を入れた碧葉がぐいっと大きな身体を持ち上げる。まるで操り人形のように碧葉に身体を動かされているこんな状態でも、しっかり目を瞑ったままの黎。


「ほら萌葉、奥行って」

「え、やだって、」

「早く」


碧葉が半ば強引に黎を私のベッドに寝かせようとするので、上半身を起こしたまましょうがなく奥へと身体を移動させて手前側のスペースを黎用に空けた。


「じゃ、また1時間後~」と笑いながら部屋を出て行った碧葉。ぱたりと閉められたドアにむっと睨みを利かせていると、寝返りを打った黎の腕が私の腰元へと回った。


ぎゅっと、腕の力が強まったので黎の寝顔を覗き込むと、とても穏やかで安心しきったような綺麗な顔で寝息を立てていて。


さらりとした前髪へ手を伸ばし、その髪を横に流しながら「…黎」とその名前を呼んだのは無意識だった。


その瞬間、ぱちりと黎の目が見開かれた。


前髪を流したせいで、しっかり顕になっている黎の瞳と視線がかち合う。


伸ばしていた手を引っ込めるより先に、腰元に回されていた腕が秒で離された。その素早さに驚く間もなく、黎は身体を起こすとさらに私から離れた。


「ごめん、もえ。嫌いにならないで」

「え?」

「許可なくベッドに入らない、抱きつかない、キス迫らない。今のはノーカンにして」


ぽつりぽつりと言葉を落とした黎は「あー……でもここにいるとやばい」と低く唸る。


「あおのところで寝てくる」


そう告げた黎はふらふらと立ち上がって扉の方へと歩き出すと、そのまま部屋を出ていった。