「えっ、……ええ!?」
正面へ顔を向け直すと、黎はテーブルにおでこをつけた状態で突っ伏している。さっきの鈍い音は、この固いテーブルと黎のおでこがぶつかり合って鳴ったものだったらしい。
これは痛そう、いや、絶対めちゃくちゃ痛い。
「ちょっと黎?大丈夫?」
頭を突っ伏したまま、両腕を下げている黎の肩を正面から揺さぶる私。頭がぶつかった時の音が思ったよりも周りに響いていたらしく、周りからちらちらと送られる好奇な視線が気になる。
「……ごめん、もえ」
状態はそのままの黎から聞こえてきたのは、あまりにもか細く弱弱しい声。
「勝手に嫉妬して、勝手に空気悪くした」
「……」
「せっかくのもえとのデートなのに」
「れ、い」
「こんなんガキだからだめって分かってるのに」
ぽつりぽつりと溢されるくぐもった反省の弁に、庇護欲なのか、母性本能なのか、私の中の何かが大きく擽られる。
「黎、頭上げてよ」
「……やだ」
「上げてくれなきゃ帰っちゃ――」
言葉を全て言い終える前に、黎の頭ががばっと勢いよく上がった。
痛々しくも黎のおでこの中心は赤みを帯びている。
「痛かったでしょ」
「全然」
「それは絶対嘘!」
「ほんと。……もえ、ごめん」
「ねえ、せっかくの“デート“なんだからもう謝るのはおしまいね」
「……」
「このあとどこに行くか決めよ?」
少し乱れた黎の前髪を整えながら笑顔を向けると、黎は目を見張った後柔らかく目尻を下げた。その弱弱しい笑みに、私の中の何かがまた大きく擽られた。


