「うん、まあ、かっこいいけどさ、」
「それに年上だしね」
「年上がなに?」
「もえ年上好きじゃん」
沈み切った声の中にトゲトゲと尖ったものを感じる。
これは、間違いなくあれだ。不貞腐れモードに入っちゃってるよね。
「別に私、年上が好きなわけじゃないよ?」
「うそ」
「本当だって」
「うそ」
完全にへそを曲げている黎の口からは間髪入れずに同じ言葉が2度繰り返された。
黎がそんな風に言うのはきっと、私のこれまでの彼氏がほとんど年上だったから。
確かに私の歴代彼氏は年上ばかりだけど、それは別に年上が好きだからという理由ではなくて。意識的に年上を選ぶようにして、意識的に年下は恋愛対象から外しているだけなのに。
「……」
「……」
私たちの間に静寂が流れる。いつの間にか空気は淀んだものに変わっていく。
黎との間にこんな重い空気が流れるのは、私が土井さんとご飯に行ったとき以来これで2回目。今まではこんな風になることはなかったのに、なんだかこんなことが続いてしまっている。
ここは大人の私がどうにかしないと。
この空気をどう切り替えそうか、一旦窓の方へと目を向けたとき。
視界の端にあった黎の顔が下方へと消え、ゴンッ!と鈍い音が聞こえてきた。


