「俺も、もえにとってそういう存在になりたい」
「そういう存在って?」
「もえの特別になりたい」
真っすぐだった視線がどこか縋るような、揺蕩うものへと変化する。
「黎のことは家族と同じくらい大切に思ってるよ」
「そういうのじゃない」
「……」
分かってる。
こんなんじゃ黎は納得しないことくらい分かっているけど、私にはこの答えしか口にすることはできなくて…。
「ほら、お腹すいたしメニュー決めよ?」
話の方向を変えようとメニュー表を黎へと差し出せば、黎は渋々といった感じで手元に視線を落とした。
「もえはさっきの先輩のこと、気になってるの?」
「え?沢城先輩のこと?」
私はガパオライス、黎はカオマンガイとミニフォーのセット。それと2人で食べるように生春巻きを頼んだ。注文を待ってる間、再び会話の流れは不穏な方へと進んでいく。
「うん。目がハートになってた」
そんな大袈裟な……。
確かに沢城先輩はめちゃくちゃかっこいいし、さっきも思わぬ遭遇に興奮しちゃったりはしたけども。私の中では手の届かないような、強いていえばアイドル的な存在なわけで。好意を持ったことは1度だってない。
「かっこよかったもんね、あの人」
そのことを伝えようと私が口を開く前に、黎は続けざまに沈んだ声を出した。


