普通の人が言えば明らか冗談だなと感じるこの台詞。
だけど黎がこんな冗談をすらすらと言える人じゃないことは分かってる。だからこそ、この言葉が黎の本心だということも十分すぎるくらい分かる。
黎の言葉はいつも純真で、直球ストレートで、私の心の中心へと痛いくらいに突き刺さってくる。だけど私はいつも、その真っすぐな言葉や視線から逃げ出してしまうんだ。
すーっと重なっていた視線を横に逸らすと、立てかけられていたメニュー表の表紙に写る若手女優と目が合った。
このお店のイメージキャラクターでもあるこの子は確か、10代が選ぶなりたい顔ランキングで殿堂入りした若者の間で人気の女優。誰がどう見ても可愛い。
「じゃあ、この子はどう思う?」
考えるよりも先に、ふと過った疑問をそのまま口にしていた。
私は一体黎にどんな答えを求めているんだろう。
自分でもなぜこんな質問をしたのか分からないままメニュー表を指さすと、私の指先を辿ってその女優へ目を向けた黎はすぐに口を開いた。
「女の子」
「えっ?」
「そこの人も、そこの人も、さっきの人も、もえ以外は皆同じ。女の子としか思わない」
料理を運んでいる店員さん、ドリンクバーへ並んでいるお客さん、それぞれ一瞥した黎の視線が再び私へと戻ってくる。


