「お疲れ様です、沢城先輩」
つい仕事気分になってしまってお疲れ様です、なんて言ってしまったけど、今日は休日だしここは会社でもない。思わぬ遭遇に動揺して間違えてしまった。
こんにちは、と言い直そうか迷っているうちに、
「あー、お疲れ」と低音ボイスが返された。
髪型はしっかりセットされているし、Vネックの白シャツにライトブルーのジーンズ、首元ではシルバーのネックレスが輝いている。
完全プライベート、私服姿の沢城先輩を見れるなんてめちゃくちゃレアだ。
ミーハーな気分で心が浮足立っていたところ、沢城先輩の真横に女性が並んだ。
「叶翔?どうしたの?」
「会社の後輩」
沢城先輩は隣にいた女性へ顔を向けると、そう端的に言葉を発した。先輩はその女性を私へ紹介はしなかったけど、間違いなく噂の彼女さんだ。
…………沢城先輩、めちゃくちゃ面食いじゃん。
もしかしてモデルさんとか芸能関係の方なのだろうか。
恐ろしいほど美人で上品な雰囲気を纏う彼女さんに思わず見惚れてしまったと同時に、沢城先輩は彼女さんの前でも変わらずぶっきらぼうなんだ、と少し驚いた。
だけど今日の沢城先輩の声は、会社で聞くよりも優しくて丸みがあるようにも感じる。


