ベイビー•プロポーズ


電車に揺られること1時間。黎のリクエストでやってきたのはみなとみらい。
 

改札を抜け、長いエスカレーターで上がる地上までの道のりは人人人で溢れていた。


この感じだと知り合いにあってもおかしくなさそう……。


若干ひやりとしながらも、駅から離れたショッピングセンターへ向かっていると、暑さのせいで少し湿り気のある掌が躊躇いもなく掬われて。指と指が絡み合うようにしっかりと重ねられた。


ちょっと、と私が口にするより先に「デートだから」と強調した黎に何も言えず。


誰にも会いませんように……と心の底から願いながら、私たちは手を繋いだまま歩いた。





夏休み中ということもあってか、ショッピングセンターの中は若い学生たちや小さい子供連れの家族がより多く目立つ気がする。


最初にお昼ご飯を食べようということになり、ふらふらと入ったレストラン街。お昼時ということもあってどのお店も列ができて混みあっていた。


私のチョイスでタイ料理のお店に並び、店内に入れたのは20分ほど経ってから。


ちょうど私たちが店内に入ったと同時、会計を終えて入口へと向かってくる人物に見覚えがあって。


「あっ、」と思わず出た私の声に気付いたからか、手元の財布へ視線を落としていたその人物は顔を正面へ上げた。


そこで初めて目と目が合い、私を認識してくれたのか鋭い眼光がやや見開かれた。