冷房の効いた車内はひんやりとしていて気持ちいい。ちょうど右端とその隣が空いていたので、黎と横並びになって座った。
ふと横を向くと視界に入ったのはウェーブのかかった黒髪。なんとなく、その黒髪に手を伸ばした時。正面を向いていた黎の顔がくるりと半回転した。
「どうしたの?」
「……」
……ち、近い。
今日は前髪が分けられているせいで、黎の真っ直ぐな視線が私をよりダイレクトに射抜いてくる。
普段なら気にすることのない距離感に、なぜか一瞬フリーズしてしまった。
しかもこの子、やっぱり顔がめちゃくちゃ整ってる。
「もえ?」
黙ったままの私を不思議に思ったのか、首を傾げた黎は数センチ顔を寄せ、こちらを覗き込んでくる。刹那、胸が微かに音を鳴らした。
これが計算をした上での行動ではないところが黎のたちが悪いところ。私だけがこんなに動揺していて、黎の方は通常運転なところがなんとも悔しい。
ここで視線を逸らしたら完全に負けてしまう気がして。純な瞳を見つめながら小さく呼吸を整えた。
「髪、セットしたの?」
「うん。昨日パーマかけた」
「え、パーマだったの?しかも昨日?」
「夏休みだしちょうどいいかなって思って」


