駅前に到着し、周りをきょろきょろと見渡してみるけれど黎らしき姿は見つけられない。
待ち合わせ時刻の10分前、どうやら早く着きすぎたらしい。
【着いてるよ〜!】とメッセージを送り、改札脇の円柱の前で待っていようと再び歩き出した時。
「! ひゃっ、」
「だーれだ」
背後から急に目元を覆われて、嗅ぎ慣れない爽やかなシトラスの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「……黎」
「当たり」
素直に黎の名前を呼べば、目元にあった手は早々に離されて。
くるりと後ろを振り向いてすぐ。私の知っている普段の黎とは180度違った目の前の姿に「えっ?」と声が漏れた。
「うわ、……やば。めちゃくちゃかわいい」
「……」
「ポニーテールにしてくれてるのも嬉しい。かわいすぎる」
「……」
私の首の後ろへと手を伸ばし、自身の指先にポニーテールの毛先をくるくると巻きつけている黎。
そんな黎の普段はセットされることのないサラサラな黒髪は緩くウェーブがかっていて、前髪はセンターパートで分けられている。
制服かラフな格好しか見たことがなかったけれど、上下黒のセットアップをしっかりと着こなしている。
「……黎、かっこいいね」
思わず溢れた私の言葉に、眠たげな末広二重を僅かに見開かせた黎。
「ほんと?」
「すごくかっこいい。ちょっとびっくりしちゃった」
「もえのために頑張ったから嬉しい」
私からの言葉に少し照れているのか、毛先を指に巻き付ける動きをやめない黎は、きゅっと唇を結んでいた。


