このまま帰宅すれば、間違いなく碧葉に根掘り葉掘り聞かれてしまう。だけど気軽に話せるほど、私の中ではさっきの出来事がまだ消化できていなかった。
それに碧葉に話せば、もれなく黎にも伝わってしまう。
時間が経てばきっと、今日の出来事も笑い話に変わるはず。美郷や優弥に話せる時もくる。だけど黎にだけはずっと、このことを知られたくないと思った。
とぼとぼと重い足取りで自宅とは正反対の方へと歩みを進めていく。
まだ家には帰りたくなくて、薄暗く染まる空を見ながら無心で歩き続けた。
「あ……、」
しばらくして気が付くと、隣の駅まで辿り着いていて。CD/DVDのレンタルショップの目の前で立ち止まっていた。
どうやら無意識でここまで歩いて来てしまったらしく、ははっと自嘲じみた笑いがこぼれた。
黎のバイト先でもある駅前のこのレンタルショップに来るのは2回目。半年前、バイトを始めた黎を見に行こうと碧葉に連れられて来た以来だ。
どうしてだろう……、なんだか心細かったからかな。黎の顔を見て安心したくなったのかもしれない。


