ベイビー•プロポーズ


それから数本見送っていた電車にようやく乗り込み、最寄り駅まで帰ってきた。


アプリを開いてみると、土井さんから新着メッセージが届いていて。


恐る恐る確認すると、【昼食代返して】という短文と金額、電話番号の3通が数分前に送られてきていた。


決済アプリを通してお金を払えということだろう。もちろんお金を送ってやるつもりはこれっぽっちもない。


改札を出てすぐの壁に凭れ掛かり、そのメッセージを閉じて真っ先に退会手続きを行った。アプリもすぐさまアンインストール。


恐らく、いや絶対、私がマッチングアプリに手を出す日はもうこない。


土井さんには本名はおろか、私を特定されるような個人情報は教えていなかったし、連絡を取る手段もアプリだけ。


プロフィールも顔がはっきり分からないような遠めの横顔写真だったし、万が一スクショされていたとしても多分大丈夫。


あーあ、軽い社会科見学のつもりで始めたのに、とんでもないことになっちゃったな。


土井さんに好意があったわけでは全くないけれど、あんな扱いをされたらさすがの私でも傷つく。なんだか胸が重くて、虚しくて、苦しかった。