威勢のいい声は心の中で留まったまま、口からは一才出てきてくれず。
私は特段、大人しい子でもか弱い子でもないのだけれど、この状況にしっかりとびびってしまっている。
腰元に回されていた手が離され、その隙に距離を取ろうと思ったのも束の間。移動した土井さんの手は、私の左手首を強めに握った。
「俺さ、アルコールが入ったほろ酔い状態ですんのがすげぇ好きなんだよね。もえちゃんも絶対はまるよ?」
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
土井さんは握っている私の腕を引きながら、どんどん目的の場所へと足をすすめていく。
ずるずると引きずられるだけの私を見てもう一押しだとでも思ったのか。一旦立ち止まった土井さんは私と身体を向かい合わせさらに距離を縮めると、私の耳元へと顔を寄せた。
「行こ?もえ」
吐息交じりの囁くような声で名前を呼ばれ、ぞぞぞ、とこれまで感じたことがないくらい全身が粟立った。
「っ、いやっ!」
あまりの気持ち悪さに掴まれていた手を振り払い、どん!っと土井さんの身体を両手で思いっきり押した。
困惑の声が聞こえたけど顔を見る余裕もなく、そのまま振り返り、歩いてきた道を全力疾走で駆け抜けた。


