ベイビー•プロポーズ


黎に構っていたら予定よりも家を出るのが遅くなって。待ち合わせの時刻よりも10分ほど遅刻をしてしまった私。


アプリ内のメッセージでそのことを伝えると、先にお店に入ってるねという連絡と、服装が分かるようにと駅のトイレの全身鏡で撮ったであろう自撮りが送られてきた。


小洒落たイタリアンカフェのテラス席。上下黒、7分丈のセットアップを着たツーブロックの男性がスマホ片手に脚を組んで座っている。


送られてきた自撮りと服装を見比べて、そろりそろりと近付いていく。



「あの……土井さん、ですか?」

「はい。もしかしてもえちゃん?」

「そうです。すいません、お待たせしちゃって」

「全然全然!どうぞ座って?」


にこっと微笑む土井さんへ、すみませんと再度頭を下げて正面の席へと腰かけた。


「改めまして。つっちーこと土井です」

「もえです。よろしくお願いします」


土井さんのアプリ内での名前はつっちー。何通目かのやり取りで『つっちーでもなんでも好きなように呼んでね』と言われたけど、さすがにマッチングしたばかりの3歳上の人をそう呼ぶのは憚れて。名字を教えてもらったので、土井さんと呼ばせてもらうことにした。


私のアプリ内での名前は【もえ】恐らく土井さんは私の本名をもえだと思っているだろうけど、今のところ本名を教えるつもりはない。