「休もうかな、バイト」
「そんなのだめ。アウト!」
「じゃあもえが行かないでよ。ドタキャンして」
「それこそアウトでしょ。人としてアウト」
はあああ、と幸せが逃げそうなくらい大きなため息を吐いた黎は今度は額を肩へ押し付けてくる。
ぐりぐりと動くせいで首筋に黎の柔らかな髪が当たって、その擽ったさに身を捩ると、ぶらぶらと手持ち無沙汰にしていた黎の両手が私の腰に巻きついた。
「は、ちょっと!」
「……まじでやだ」
さらに強く押しつけられた額と嘆かれた弱々しい声に、黎の腕を引き剥がそうと動かした左手をそっと横へと下ろした。
「本当にご飯だけだから」
「また会おうって言われたら?次も会うの?」
「それは分からないよ」
「今日だけにして」
「それも断言はできない」
「……付き合う可能性は?ないよね?」
再び鏡越しに視線が交じり合う。不安そうに揺れるその瞳に気づかないふりをして、
「ないとは言い切れない」
敢えて黎を突き放した。
私の返事に何も答えず、静かに顔を伏せた黎。私の腰元を抱く両腕の力がぎゅっと強まった。
そのままお互い何も話さぬまま、黎は私の肩に顔を埋め私は髪を巻き続けた。
右側の髪を巻き終え「黎、こっち側も巻くからどけて」とやんわり言えば、黎は無言で頭を右肩へと乗せ直した。


