あんぐりと口を開けていると、1歩先を歩く黎が振り返り、30cmほど真上から私を見下ろした。


ちなみに私はめちゃくちゃ小柄なわけではない。ただ黎の身長が高すぎるだけで、155cmと至って平均的。なんなら黎は、4月の健康診断で0.5cm伸びていたと言っていた。


「もえ、まぬけな顔してる」
 
「誰のせいだと思ってるの?」

「かわいい」

「……」


通常運転の黎に、はあ…と態とらしく大きなため息を吐いた。


「ねぇ、黎。そろそろ手、離して?」

「どうして」

「もうすぐ家だから。誰に見られてるか分からないし、近所の人に誤解されるの嫌だもん。てかこれ、何回も言ってる!」

「暗いから大丈夫」


こうして黎と帰るのは初めてなわけじゃない。いつもいつも強引で、私のお願いに聞く耳を持たない黎はさらに手の力を強める。


「あ、スマホが鳴った!黎!誰かから連絡来たみたいだから一旦離して」

「……」


バイブの音が聞こえたのか、渋々手を離した黎は私のバッグを勝手に漁り、はいとスマホを手渡してきた。


画面を見れば、友達登録しているドラッグストアからの20%オフクーポンのお知らせ……。


「だれ?」

「ん〜?彼氏。明日の仕事終わりに会える?って」

「年上の銀行員?」

「う、うん、そうそう〜!」

「うそ」


間髪入れずに突っ込まれ、私の棒演技は呆気なく見破られる。