「あー、今日が記念日らしいね?沢城先輩」
「だからかあ。ただのデートじゃなかったんだ」
1時間のお昼休憩。広々とした社食のソファ席に座る私と同期の美郷の会話は沢城先輩について。
「もしかしてプロポーズだったり」
「え~!沢城先輩のプロポーズって全然想像つかない!そこは安藤先輩には何も聞いてないの?」
「うん。記念日デートってしか聞いてない」
「なになに、何の話」
そこにきつねうどんの乗ったトレイを持って遅れてやってきたのは、同じ経理部同期の伊藤優弥。
同じフロアに私を含めて伊藤は3人いる。その1人が、横並びで座る私と美郷の前に座った優弥だ。名字が同じということもあり、お互い下の名前で呼び合っている。
「沢城先輩がどした?」
「今日先輩の雰囲気が違うからデートかなあって思ってたら、記念日デートらしい」
「へえ、そんなに雰囲気違った?」
「え、優弥も絶対見てる!前髪上げてたじゃん!」
「そうだっけ?」
「ほんと伊藤ってそういうところ疎いよね」
優弥は人の変化に疎く、美郷がロングの髪を肩まで切った時ですら気が付かなかった。どこか掴みどころがなく不思議な雰囲気をもつ優弥は女心が分からず、付き合った人には毎回振られる側だという。
「せっかく顔がよくて性格も優しいのにもったいないよね~」
「ねえ」
ひと足先に食べ終わっていた私は、マッチングアプリを開きながら美郷の言葉に同意した。


