ソファを降りて立ち上がり、カウンターキッチンの前にあるダイニングテーブルへと足早に逃げる。
「あ、逃げた」と呟く黎の視線をソファの方から感じるけれど、それを完全にシャットアウトした。
カウンターキッチンに立つ碧葉はコップに入れた水道水を一気飲みすると、私に向かってにやりと口角を上げた。
「ついに付き合ったわけ?」
「はあ?付き合うわけないでしょ」
「玄関入った時萌葉の笑い声聞こえたけど、すげぇ楽しそうにしてたじゃん」
「あれは……黎の表情がツボに入っちゃって、」
「爆笑するもえ、くそかわいかった」
いつの間にかダイニングテーブルまでに歩いてきていた黎が私の目の前に腰掛けるので、ぐっと睨みを効かせてやった。
「もえ、怒ってる?」
「当たり前でしょ?」
「俺も怒ってる」
「……あれは、ごめん」
「おあいこね」
「……」
「頷いて、もえ」
頬杖をついた黎にじーっと視線を送られるので、大きくため息を吐いてこくりと頷いた。
食パンを袋から取り出そうとしている碧葉は私たちの方へ目を向けることなく「見せつけてくれるねぇ〜」と薄く笑う。
「あお、帰ってくるの早くない?」
「あー、だるすぎて帰ってきたんだわ」
「喧嘩?」
「喧嘩っつーか、多分もう別れる」
話の流れ的に、碧葉は彼女とデートをしていたらしい。碧葉の恋愛事情を把握しきれていない私は、黙って聞き役に徹することにする。


