「ていうか!そんな誘い文句どこで覚えてきたの」
「いつまでも子供扱いすんな」
「ま、待って、黎」
「やだ」
黎の腕を掴んでいた手を左、右、と片方ずつ振り払われ、再び肩に力が込められる。
当たり前に黎の馬鹿力に敵うはずもなく。ああ、もう無理だ、と瞼をぎゅっと閉じた。
――ガチャリ、リビングの扉が開く音がして。固く閉じていた目を開き、その扉の方へと顔を向けた。
「「「あ」」」
"あ"の三重奏がリビングに響く。
扉の前に立っている碧葉は、目を丸めて固まる私を一瞥すると、そのまま黎へと視線を移した。
「わりぃ黎、邪魔した」
「ほんと。タイミング悪い」
「俺に気にせず続けてどーぞ」
「いやいやいやいや碧葉?何を言ってるの?」
姉が自分の友人に組み敷かれているというのに、何も気にすることなくキッチンへ向かおうとする碧葉に思わず突っ込みを入れた。
「あー、萌葉も邪魔してごめん」
「いや、違う違う。邪魔されたなんて全く思ってないし」
「でも目瞑ってなかった?」
「え、あれ…は、」
「瞑ってた」
「だよな、満更でもねぇじゃん」
「っ、違う!!あれはもう諦めただけ!」
いきなりの大声に驚いたのか、私を押さえつける黎の力が僅かに弱くなったその隙に、するりとそこから抜け出した。


