ベイビー•プロポーズ



一体何が起きたのか状況が掴めないまま上を見上げれば、左に座っていたはずの黎が私を見下ろしていた。


1、2、3秒後、黎に押し倒されていることをようやく脳が理解した。


「ちょ、ちょっ?黎、なにしてるの…」


ソファへ沈んだ身体を起こそうてしても、両肩を黎に抑えられているせいで動くことができない。


「もえ、俺怒ってる」

「ご、ごめんってば」

「口ん中めちゃくちゃ甘い」

「ごめん!」

「どうしてくれんの」

「お、お水持ってくるから、今すぐこの手、離して…?」


男の人に押し倒される経験はそれこそ何度もあって、普段はなんとも思わないのに、その相手が黎というだけで大きく動揺してしまっている。


「やだ」

「やだじゃない」

「今すぐもえがどうにかして」

「……どうにかって、」


表情筋を使いすぎてスイッチが切れてしまったのか、一切の表情が消えた顔がぐっと近付いた。

常に眠たそうに見える幅広二重、そこから覗く色素の薄い瞳は私の唇をじっと見つめている。


「もえ、いい?」

「だめ、だめだめだめだめ!」
 

直接的な言葉はないけれど、その視線から黎がこれからしようとしていることが分かった私は、黎の両腕を掴んで抵抗を試みる。