「じゃあね黎。気をつけて帰ってね」


いつも通りお見送りをするため玄関の外へと出てきたのだけれど、私の名前を呼べなかったことを引きずっているのか、黎はいつも以上に大人しめだ。


「黎?名前のこと、全然気にしなくていいんだからね?」

「……」

「ほら、呼び慣れてないと難しいこともあるしね。私だって黎くんって呼ぶの、なんだか恥ずかしいもん」

「……」

「それに黎の可愛いところも見れたし満足だよ」

「……もえにはかっこいいって思ってほしい」


真っ直ぐ私を見つめながら、架空の耳をしゅんと垂れ下げる黎に心の中で「(かわいいっ……)」と悶絶する。


「黎はいつでもかっこいいよ」

「ほんとに?」

「本当に」

「もえの名前呼べなくても、俺のこと好き?」

「ふふっ。好きだよ」


黎と付き合ってから、愛情表現の言葉をできるだけ口にするようにしている。もちろん恥ずかしさもあるけど、黎が素直に気持ちを伝えてくれるから、私もきちんと言葉にして返していきたい。


「俺も……、」


一旦言葉を区切った黎は、より一層力強い眼差しを私へ向けてくる。
 

「俺も好きだよ。萌葉」

「っ、」


名前を呼ばれることくらいどうってことないと思っていたのに……。想像以上の破壊力に心臓がぎゅんと締め付けられた。


耳まで真っ赤にさせる黎と同じく、私の顔も赤く染められていった。


fin.