俺はきちんと"待て"ができる忠犬だと思っていた。
だけど全然違かった。ただの馬鹿犬だった。




もえの悲しんでる顔とか、辛そうな顔は苦手だ。俺まで心が苦しくなる。


暗い顔よりも思いっきり笑ってる顔を見たいし、楽しそうに笑ってるもえは最高にかわいい。


あの時初めてもえの涙を見て、やっぱり心が苦しくなった。泣かないでほしい、もえに似合うのは笑顔だけなのに。そう思っていても慰める方法が分からなくて、もえの流す涙はどんどん大きくなっていった。


急に泣き出した理由も、怒り出した理由も、ダメな俺には見当もつかなくて。


だからもえの涙の理由を聞いた時、一瞬頭がフリーズした。


あの涙は、俺がほかの女にキスされたことに対する涙だった。俺のファーストキスがあの女だと思い込んでの涙だった。


もえの泣き顔を見ると苦しくなる。だけど、その理由に嬉しいと思ってしまう自分がいた。しゃくり上げて泣いているもえが可愛くて愛おしいと思った。


嫉妬?やきもち?1ミリでも、もえの中にそんな感情が芽生えてくれているなんて。嬉しすぎて頭が爆発してしまいそうだった。


いや、実際に爆発して、墓場まで持って行こうと思っていた秘密を打ち明けてしまった。


寝ている間に勝手にキスする男なんて最低だ。


好きでもなんでもない奴にキスされる気持ち悪さを知ったからこそ、さすがにもえに愛想を尽かされたんじゃないか、嫌われたんじゃないかと怖くなった。


それなのにもえは、そのことを怒るでもなく、軽蔑するでもなく、俺のファーストキスの相手が自分でよかったと、また泣き出した。



もう、もえのことが好きすぎて限界だった。