黎からの「可愛い」も「好き」も聞き慣れているはずなのに。絞り出すように吐き出されたその言葉に、心臓がとくんとひと跳ねした。


「俺のことを考えて泣いてるもえ、可愛すぎてやばい」

「……」

「このままだともえが可愛すぎてキスしそうになるから、一旦離れる。俺に触っちゃだめ」



黎の言葉を聞いてすぐ、心臓の音が迫るように大きく響いてきた。それと同時に、胸の中にずっと閉じ込めていた別の感情が溢れ出てきそうにもなる。



――なに、この感覚。怖い。



ここでようやく、パーにした掌をこちらに向けたままの黎がゆっくりと顔を上げた。
 

やけに水分量の多く見える瞳を揺らす黎の頬や耳は、薄暗いこの空間でも目で見て分かるくらい、赤く染まっていた。


その赤が伝染するように、頬に熱を感じてしまう。


「もえ」

「なに?」

「俺、もえがこんなに泣きじゃくってるの、初めて見た」

「恥ずかしいから忘れて……」

「忘れない。もう脳内保存した」

「……」

「もえ」

「なに?」

「その涙は、俺のせいなの?」


私の目元を優しい眼差しで見つめてくる黎。こくり、と首を縦に振って「そうだよ」と告げる。


「全部黎のせいだよ」

「……」

「私がこんなにぐしゃぐしゃになってるのは、全部、黎のせい」


私が素直に答えたことに余程驚いたのか、分かりやすく目を丸めた黎は、数秒固まったのち、嬉しそうに目尻を緩く下げた。


胸のあたりがじんわりと温かい感情に包まれる。


"愛おしい"という気持ちでいっぱいになる。