「黎、それは違う」
「じゃあ、なんで泣いてるの」
「私、……っ、わた、し、ね」
喉を詰まらせる私の背後へ腕を伸ばした黎は「ゆっくりでいいよ」と一定のリズムで背中をさすってくれる。その優しさに涙が溢れ出てきてしまうから、もうどうしようもない。
大の大人が公園のベンチで大号泣しながら男子高校生に慰められている。
なんて恥ずかしくて情けないんだろう。
だけどそんな状況を全て受け入れて、今はただ黎の優しさに甘えてひとしきり涙を流し続けた。
「……安心、したんだと思う」
数分が経ち、ようやく呼吸も涙も落ち着いてきたところ。私の発した言葉に、ずっと背中をさすってくれていた黎は手の動きはそのまま、「え?」と驚いた様子で声を上げた。
「黎にキスされてたのが嫌なんじゃないよ。嫌だなんて思わない」
「……」
「安心したの。黎のファーストキスが、さっきのキスじゃなくてよかった…って。ファーストキスの相手がさやかちゃんじゃなくて、私でよかったって思ったら、なんか泣けてきちゃって」
「……」
「なんでそんなことでこんなに泣いてるんだろうね?ごめんね、」
私の心に湧き上がってきた感情は“安堵“だった。
言葉にした通り、黎のファーストキスの相手が私でよかったと、心の底から安心して溢れてきた涙。


