「もえ」
「なに?」
「もえだよ」
「……え? 私が、なに?」
「俺が初めてキスしたの、もえ」
想像していなかった答えに、それまでどうしたって止まってくれなかった涙が一気に引っ込んだ。「へ?」と間の抜けたような声が口から漏れ出る。
「なんなら俺のセカンドキスも、サードキスも、もえだから」
「………………ん?」
セカンドキス?サードキス? 頭の中がはてなマークでいっぱいになる。
「ごめん、もえ」
「ちょっとまって、まってまって、黎の言ってることがよく分からない」
「うん」
「私、黎とキスした覚えなんてないよ?」
「うん」
「どういうこと?」
左、右、と手の甲で縁に溜まっていた涙を拭って視界をクリアな状態にする。
まるで悪戯がバレて怒られる前の子供のように視線を逸らした黎の名前を、宥めるように優しく呼んだ。
再び戻ってきた視線。数秒見つめ合い、揺れた瞳をゆっくりと伏せた黎はようやく口を開いた。


