どこからか話を聞きつけたのか、教室からメイド姿の女子が代わる代わる顔を覗かせていて。私と黎を見ながら何やらこそこそと話をしている。
さすがにこの状況が居たたまれなくなって、私のお腹の前でクロスされている黎の腕をとんとんと叩いて「そろそろ離して」と首だけを後ろに向けた。
相変わらず無を極めていた黎の両眉が僅かに上がり、「あ、」という声と共に私の身体が離される。
「……、ごめん、またやっちゃった」
黎と向かい合わせの状態になると、目の前の首ががくんと落ちた。両手を上げながら1歩下がり、私との距離を空ける黎。
「学習能力0でごめん」
「……うん」
「まじで俺、やばいかも」
「なにが?」
「余裕がなくなってきてる」
トーンを落とし、覇気のない声を出す黎に庇護欲が掻き立てられてしまって。
目の前にある黎の旋毛を人差し指で押して名前を呼べば、垂れ下がっていた頭がゆっくりと持ち上がり、揺れる瞳が向けられた。
「殴って」
「はい?」
「次、もえに抱きついたら、俺のこと思いっきり殴って」
「そんなことできないよ」
「自分じゃもう制御できない。もえに嫌われたくないのに……ごめん」


