死ぬまでに、少女漫画のような恋がしたいだけ。


「美來は、幼年期後退病(ようねんきこうたいびょう)という病気なんだ。」

「幼年期、後退病...?」

 どういうこと...?
 私の口調がおかしくなったのは、そのせいなの?

「それって、もしかして...」
「光野くんは知っているんだね」
「はい...」

 お父さんは私の病気について続けた。


「簡単に言えば成長の反対。
 どんどん赤ちゃんになっていく病気なんだ。

 美來の喋り方が子供っぽいのもそのせいだ。

 きっと美來も自覚あるだろう?光野くんに出会ってから、自分は子供っぽいって。

 13歳で成長が止まり、また戻っていくんだ。
 美來の症状はもう、4歳まで戻っている。今回の昏睡で一気に若返ってるんだ。

 ...予想よりも、だいぶ早い」


 幼年期後退病だ、と言われて、なるほどなと納得は行く。でも、本当に私は...

 頭の中では難しいことを理解できても、口で、年相応のことを言うのは難しいらしい。
 だから、私...一人称も両親の呼び方も...

「美來...ごめんな...言えてなくて」

 いいのに。そんなの気にしなくて。

「美來も、光野くんも...」

 お父さんが、ハンカチを取りだして目を抑える。
 私は1人ベッドで佇みながら、戸惑い続けた。

 どんどん幼くなる。それは理解した。

 でも...

「ママ...」

 "お母さん"って、言えない。どう頑張っても出てくるのはママという言葉だけ。

「ごめんね...私ちょっと、外へ出るわ」
「ママ...ゲホッ ゲホッ」
「美來、無理するな...」
「星惟〜...」

 また星惟がギューって抱きしめてくれた。
 お父さんも、愛菜ちゃんもいるのに...

「あらあら。私も退散しますね。お父さんも...」
「そうですね」