「美來」
何も無かったかのように、星惟は今日病室へ来た。
「星惟、元気?勉強大変?」
愛菜ちゃんに言われた通り、私はこの前のことを何も言及しないつもり。
「う、うん...専門用語だらけで覚えられない」
「そっか。でも、星惟なら、私みたいな人をいっぱい助けられるよ」
もうすぐ夏休み。
「夏休み、星惟はどこか行くの?」
明るい話題にしたくて、私はそんなことを聞いていた。
「どこにも行く予定ないけど...」
「そう、だよね。受験生だもんね」
本当は、愛菜ちゃんに許可取って、花火大会に行きたいなんて思う。
でも、そんなことはできない。
愛菜ちゃんなら、少しくらい良いって言ってくれそうだけど。
「花火大会行ってみたいなぁ...」
「花火大会?」
「うん。行ったことないから」
私が星惟と付き合い始めて、出来た夢。
□黄昏時の浜辺で彼氏のバイクの後ろに乗る
□私達だけしか知らない穴場で、花火を見る
□たこ焼きを1つの爪楊枝であーんってする
□夕焼けが綺麗な頃に、観覧車の頂上でキス
□1つの有線イヤホンで、一緒に音楽を聴く
これらをノートに書いている。
読んだ少女漫画に出てきたことばっかりだけど、こんな感じのことをやってみたい。
できっこなくても、夢、だから。
それでも、星惟と叶えたい。
「美來が行けるなら、付き合うよ。花火大会」
どこまでも優しい星惟を前に、泣きそうになる。
私、星惟が好き。
「ありがとう。愛菜ちゃんに聞いてみるね」
この前の検査結果は言わなかった。
