死ぬまでに、少女漫画のような恋がしたいだけ。


 星惟くんは、辛そうな顔をしていた。
 こういう話をすると、星惟くんはいつも悲しそう。

「星惟くんにも、そういう経験あるの?」

 誰にもわかって貰えない、我慢だけの日々。それをわかっているかのような顔だった。

 私ならわかるよ。病気を経験しているかどうかくらい。ずっと健康な人と、内部から出る雰囲気が違うから。

「星惟くん、辛そうだよ」

 彼の瞳が、そう訴えているように見えた。
 こんな私でも力になれるのって、こういうことしかないから。

 星惟くんは、静かに微笑みながら、私に昔の話をしてくれた。

「...昔、白血病なったことあるんだ。僕」
「白血病...」

 白血球が、体内で異常な数まで増殖してしまう病気。血液のがんとも呼ばれる病気だ。

「前、前髪の話したじゃん?僕の前髪が長いのって、その時にできた痣を隠すためなんだ」

 あの時、すごく嫌がってたもんね...
 事情を知らなかったとはいえ、してはいけないこと言っちゃった。

 だからわざと明るく振舞ってることくらいわかる。
 そう、言われた。

 あの時も、星惟くんは病人のことが多少なりともわかるから、言ってくれたんだね。

「だから、僕は美來の力になりたいって思ってる」
「ありがとう。気持ちだけで、嬉しい」

 美來の力になりたい。
 こう言われただけなのに、私の胸はあったかくなった。余命宣告されて、何もできないって思ってた。何にも心を動かされないと思ってた。
 それなのに、彼は私の心を動かした。

 でも...

「私は、結局死んじゃうんだけどね」

 死が、すぐ隣にあることくらい、分かってる。だからこそこのドキドキは、嬉しいものだけでなかった。