死ぬまでに、少女漫画のような恋がしたいだけ。


「5月29日午前9時49分、ご臨終です」

 美來の担当医が、美來の死亡宣告をした。
 あの、中治り現象から7日後のことだった。

 あの日以降、美來は急激に体調を崩し、喋ることも目を合わせることも出来なくなった。

 本当に、あれが最期の声だった。
 中治り現象って存在するんだとも思った。でも、美來は自分が自分で中治り現象だと把握し、自分の生命の期限を悟っていた。

 美來は、最期まで強かった。

「美來...美來...みら...い...」

 美來のお母さんの、声にならない泣き声と、美來を呼ぶ声が響く。

 こんなにやるせない気持ちになったのは初めてだ。
 大切な人を失うのが、こんなに怖いなんて。

 思わず僕は、静かに目を閉じる美來の小さな手を握った。

 冷たい...死後硬直がすでに始まっている。


 これが、人の死なんだ。


 安らかに眠る美來の唇に触れる。
 柔らかくて温かいはずの唇も、固くて冷たい。僕の熱を分けてあげるから、目を覚ましてほしい。そんな叶うはずのない願いを思い浮かべてしまう。

「美來...」

 放心状態の僕に、美來のお父さんが言う。

「いっぱい、泣いてあげて。美來だって...」
「いいんですか...?」
「ああ」

 僕は、人前で初めて大声で泣いた。

「美來...美來...9本の向日葵は?約束...破るなよ...」

 覚悟していたはずなのに、泪と嗚咽がいつまでも止まらなかった。「星惟」と、小さな声でいいから呼んでほしい。

「美來...」

 僕の声は誰に拾われることもなく、悲哀の空間に消えていった。