命は当たり前では無い
そんなこと100万回も聞いてる
命は大切で尊いものかけがえのないもの
でも私はそうは思ってなかった
命は辛いことを沢山与えてくる
生きていたらたくさんの壁をあたえてくる
幸せだって思えるだけじゃない
その分苦しいもの
そう思っていた。
あの日が来るまでは

私には彼氏がいた、
寒い日だった。
久しぶりに彼氏に会えると思った日、
彼氏は死んでしまった。
私に会いに向かってる途中轢かれそうになってた小さい女の子を庇ったからだそう。
結局2ヶ月前に会ったきり彼氏にはもう二度と会えなくなってしまったのだ。
信じられなかった。
小説やドラマでよくある最後の言葉なんて聞けなくて顔すら見えていない。
強いて言うなら最後の言葉はいつも通り寝落ち電話したときの寝息のみ。おやすみは言えなかった。
しばらく現実だと思えなかった。
最愛の人を無くしてしまったから。
でもこれは良い表現なだけであって正確には現実逃避をしてた。
私は彼みたいに優しくもない。
どうして自分の命を捨ててまで小さな命を助けるのか、理解できない。
私のことは?どうするの??苦しいとしか思わなかった。
小さな女の子が手紙を私に届けてくれた。
彼への手紙。
笑顔で彼の代わりに受け取った。内心あなたのせいで死んでしまったのに…そう恨みをまだ命を理解できない小さな子供にその感情を出してしまった。
彼は死んでしまっている。
どうして手紙なんかわたすの?
あなたが轢かれそうでなければ済んでた話なのに。
怒りが止まらなかった。
食欲もない、眠気もない、彼のいない世界は息がしずらかった。
貰った手紙は勝手に視界に入らないように、棚の奥底にしまった。

現実逃避してから3週間がすぎた。
そういえばとふと思い出して彼の家に行った。
彼のお葬式にしか行かなかった私は彼の物を整理出来ずにいた。
思い出してしまいそうだったから。
玄関を開けると彼の匂いが鼻を通り抜けた。
懐かしかった。
部屋に入ると散らかったままの服が溢れてた。
きっと私に会うから悩んでくれてたのだろう。
ベットには私との思い出の写真がたくさん並べてあった。
ふと見るとドアノブにカバンらしきものが掛かっていた。
いつも私に会う時に必ず持っていたかばんだった。
少し大きめの黒のかばん。
私の荷物を入れるために大きめにしてたらしい。いつでも私のことを思ってくれてたな。
たぶん事故当日もこのかばんをもっていたに違いない。かばんには生々しい擦れ傷がついている。彼のお義母さんが持ってきてくれたのだろう。
涙で溢れそうになったけど泣かないと決めたから泣かなかった。
かばんを手に取ろうとすると紙袋が落ちた。
きちっとした水色の「Jewelrykiss」とかいてある紙袋だ。
まさかと思って袋を開けると手紙とバラの花びらと小さな箱が入っていた。
手紙を開けると彼から私への手紙だった。
「ゆりへ
今日は俺と出会って5年目の記念日だね。
初めて会ってからだと、10年かな?
あっという間だった、
毎日幸せで俺が辛い時もいつでも支えてくれたね。ほんとに癒しで助けられました。ありがとう。久々に手紙を書いたから、緊張してるわ笑ゆりは俺からしたらかけがえのないたった一人の女の子です。僕と出会ってくれて付き合ってくれて改めてありがとう。久しぶりに会えたね。お互い仕事が忙しくて寝落ち電話ばっかだったからすんごい嬉しい。気合い入れて髪もセットして服も買い直したんだ!どうかな?笑」
部屋を見直すと鏡の前に散らかったヘアスプレーとワックスがあった。
言葉が出なかった。
「俺はお前のことが大好き。この気持ちは5年経った今も冷めてない。お前に片思いしたあの日からね。俺はお前のためならこの命も捧げられる。お前のためならなんだってする。その代わりに俺の傍にずっと居て欲しい。俺にはお前が必要でお前がいないと生きていけないよ。
だから俺からお願いがある。俺はすぐに死ぬ予定もないよ。でもいつか死んでしまうだろう。その時はどうか俺の事を許して欲しい。
そして俺から彼氏として最後になるかわかんないけどそうでありたいな。プレゼントを送らせてほしいです。」
涙が止まらなかった。
せっかく書いてくれた手紙が涙でにじんでしまった。
涙があふれるまま紙袋に入ってる小さな箱を取り出した。
ゆっくりと蓋を開けると花が咲いた。
真ん中には指輪があった。
メッセージが入っていた。
「来年も俺と海に行ってくれませんか。夫婦として。」
私はひたすら泣いた。
私がまえ久しぶりに会った時、tubuttaに投稿してあったプロポーズの動画を彼に見せて
「すごいね、彼女さん幸せだね!」っと無意識に発言してしまったからだ。
私の憧れであって夢だったけどまさかここまでしてくれるなんて。
海か、毎年海に連れて行かされてたな。
言葉が出なかった。
その日は溢れる涙をただ流したままにして彼の服と指輪を抱きしめたまま眠りについてしまった。

ん、ここはどこ??
目を覚ますとそこには彼がいた。
え、どうして…
彼は何も話してくれない。ただ抱きしめられていた。
「ずっと会いたかった。私あなたのお嫁さんになりたかった。離れ離れなんて、もう会えないなんて私には耐えられない。」
顔を上げると優しく微笑んでいた。
「大丈夫。また会えるよ。そしたら結婚しよう。俺の代わりに幸せになってくれ」
そう言って彼は心の中にきえてしまった。

ん、あれ?
寝てた?夢だったのか…
鏡をみると腫れて涙が溜まっている目だった。
喉が渇いたので彼の冷蔵庫にあった水を飲んだ。彼は水は嫌いだった。でも私が水派なので家には500の水がダンボールである。
彼は優しかったな。
最後も優しかった。
私は最後彼に会えたおかげで前向きになれた。
彼にまた会って彼の隣にいられるように、今度は私が彼の傍に行く。
カーテンを開けると晴れ渡った空があった。
昨日までは雨だったのに。
彼が育てた植物が水を欲しそうにしていた。
待ってねと水を与えた。
すると、蝶が私の指に止まり、空へと飛んで行った…
(また会えるよね)そう心でつぶやいた。
私は家に帰り女の子から貰った封を開いた。
そこには彼の顔の絵と誰か知らない女の人の絵だった。
もしかして。
そう思ったまま手紙を開けた。
「たくやさんへ
わたしをたすけてくれてありがとうございました。わたしはいまもいきています。
それはたくやさんがわたしをまもってくれたからです。いまさらこんなことをいっても…ごめんなさい。たくやさんのカバンにけっこんゆびわがはいっていたのをみました。そこには「あやへ」と書いてありました。かのじょさんですよね。えをかきました。2人がはなれてもおぼえていられるように。ほんとうにありがとうございました。」
泣けた。
小さな女の子がこの手紙を書くなんて。
そうだよね、あの子は生きてるんだ。彼のおかげで。
ダメだまた泣いてしまう。
目を瞑り涙をこらえた。
この手紙を濡らす訳には行かない。
昔彼に送った時に使った便箋を棚から取り出しペンを握った。
女の子へ手紙を書こうと思う。
小さな子供だから漢字は読めないだろう。
だからひらがなで丁寧に書いた。
私は彼ではないし彼の代わりという訳でもない。でも私から手紙を書いて伝えたいことがある。だから書く。
「みおりちゃんへ
わたしはたくやではなくて、たくやのかのじょのあやです。おてがみありがとう。おえかきじょうずだね。すっごいうれしかったよ。おねいちゃんはうれしいんだ。たくやのおかげでみおりちゃんがたすかって。みおりちゃんはわるくないんだよ。たくやがしたことだから。おねいちゃんもおこってないし、みおりちゃんのこときらいになってないよ。だからたくやのかわりにしあわせになってね。おねえちゃんもがんばるよ。またこんどあいにいってもいいかな。」
私なりの精一杯の優しさだった。
お手紙に書いてある住所を写して家の前にあるポストに入れた。私の連絡先もいれて。
みおりちゃんに直接会いたくなった。
きっと彼女は自分を責めているかもしれないから。
私だったら自分のことを嫌になると思うから。
これでいいんだ。
会いに行こう。
会って一緒に彼の分まで生きよう。そう思った。
家に帰りもう1枚便箋を取り出した。
彼への手紙を書くために。
私たちは彼が生きていたら結婚していた。
これから2人の人生が始まろうとしていた。
なのに彼もこんなことになると思っていなかっから。手紙を書きたい。
震える手でもう一度ペンをもつ。
「たくやへ
この手紙をどこで読んでるのか分からない。読んでるれるのかもわかんないけど私から手紙を書かせてほしい。初めて出会って8年だよね。付き合って5年だね。あっとゆう間だったね。楽しかったよ。幸せだったし毎日が輝いてた。お互い仕事で忙しくてでも毎日の電話のために頑張れてた。今までほんとにありがとう。私は何回もたくやに助けられてるよ。たくやにとってわたしはもったいないって思うくらい。優しくて面白くて自分のことよりも人のことを助けるそんなたくやの彼女で幸せだった。
お手紙読んだよ。泣いちゃったよ。もちろんたくやの妻になりたかった。夢でたくやが出てきたんだ。たくやが私に言ってくれた。またどこかで会えたら、2人で生きようって。私もそうしたい。次会えたら私をたくやの妻にして欲しい。そのために今を精一杯生きるよ。たくやの代わりに生きるよ。あの女の子と。
だからまた会う日まで大好きだし愛してる。いつまでもいつまでも。私と出会ってくれて、命の大切さを教えてくれてありがとう。」
書き終わったときにはもう遅かった。
その手紙はびしょ濡れだった。
滲んでしまった。
でも1回の手紙に思いを詰めたからこの手紙を渡したい。
しばらく乾かして大切に封を閉じた。
女の子の手紙と私の手紙と彼が好きだったルイボスティーを手提げ袋にいれて駅へ向かう。
彼のお墓の場所は私の家から遠い場所にある。
初めて行くけど心は晴れやかだった。
やっとたくやに会える。
大都会だった街並みは田舎へと移り変った。
夕日が車内を照らしている。
田舎の電車はあまり人がいない。
だから居心地がいい。
彼との思い出の写真を見返していた。
変顔の写真と初めてちゃんとしたレストランに行って緊張している写真とプリクラも。
スマホ画面には彼の写真が溢れている。
悲しくはない。
誇らしい気持ちだ。
しばらくすると海が見えてきた。
たくやは海が好きだったのだ。
だからお墓は海の近くのお墓にしたそう。
誰もいない駅を降りると潮風で気持ちが良かった。
久しぶりの海は居心地がよかった。
前は夏に来たんだっけ、
海も夕日に照らされて波がキラキラと輝いていた。
冬の海は入りたいと思わないけど景色は最高だ。どの季節の海よりもより魅力的に見える。
そんなとこが彼は好きだったのだろう。
「ねえ、なんでそんなに海が好きなの?」
「海はねどんな季節でも綺麗なんだ。心が浄化されるし、居心地がいいからね。」
そう言ってたな。
花屋に寄り並木道を抜けて森林公園を抜けるとお墓があった。
桶と柄杓をもちたくやのお墓を探す。
大須木…
あ、あった。
一番端のお墓だった。
そこからは海が見えた。
お花を変えてお線香に火をつけて手を合わせた。
(やっと会えたね。見えてるかな。)
今までの思い出がよみがえる。
結婚したら新婚旅行はオーストラリアがいいねと話したあの頃。いやまずは国内からだろって言い合ってたっけ笑。
楽しかったな。私は出会えてよかった。
命なんて正直どうでもいいと思ってた、生きていることが幸せなんて思ったこともない。
そんな私がたくやが亡くなってから命の大切さを知ることが出来た。
家に帰る途中辺りはすっかり暗くなってた。
街灯も少ないこの街は星空に包まれていた。
彼の笑顔のように輝いていた。
(たくや、私頑張るよ。)
空に向かって誓った。
また会えるその日まで、
キミに最後の誓いを私から。