バツイチ美女と 御曹司

と急に立ち止まってナタリーが言った。
いつも用意周到のナタリーにしては
珍しい。

「私が取ってきましょうか?」

とマリがいうと

「いいの、場所もわからないし、
すぐに行ってくるから。待ってて」

そう言って速足で行ってしまった。

マリは近くのベンチに腰掛けて晴天の空を
見上げ、顔いっぱいに陽ざしを浴びて
深呼吸をした。

この頃のマリの癖だ。

朝もそうして空を仰いで歩いていて、
躓いて転びそうになったりしたことが
何回もある。

けれどやめられない。

顔にお日様の優しい励ましを受けて
いるようで、安心するのだ。

「お嬢さんここいいですか?」

と聞き覚えのある声がして、
はっと横を見ると裕が立っていた。

マリは幻でも見ているのかと何度も
瞬きをしてあらぬほうを見て、
もう一度目を戻しても幻は消えて
いなかった。

「裕?」