冷たい彼と熱い私のルーティーン

それから退勤が21時を過ぎる日は春野さんが家まで送ってくれるのが私達のルーティーンに加わった。

結局ステンレスボトルは洗って翌日出勤時刻を打刻する時に返してくれた。その後も送ってもらった時には、東京に戻る彼に何かしらのホットドリンクと小分けのお菓子なんかを渡していた。

こちらからお願いしたわけではないとはいえ何度も送ってもらっているのだから、お礼に食事でもご馳走した方がいいのだろうかとも思ったのだが、提案するような雰囲気でもなかった。

相変わらず私達には会話らしい会話がなかったのだ。静脈認証する時も、送ってもらう時の電車や道でも無言だった。ただ、認証する時に彼が手を握り返してくるようになったし、電車では隣に座るようになったし、家の最寄り駅から家までは毎回手を繋いでいた。

彼の冷たい手と私の熱い手。それが重なると程よい温度になり、なんだかすごく心地がよかった。言葉ではなく体温を交わし合っているような感じだった。


いつからか帰りが遅くなった日の春野さんとの帰り道が楽しみになっていた。