翠くんは今日もつれない【完】

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季節は紅葉の朱やオレンジが木々を彩り、金木犀の柔らかく甘い香りがそこかしこで漂う秋。

本日は我が校の一大イベント、文化祭当日である。



「クレープおひとついかがですかー!美味しいですよー!!」

「13時から体育館で舞台やりまーす!!演目はロミオとジュリエットでーす!ぜひ、いらしてくださーい!!!」



正門を通ってすぐの校舎へと繋がるこの道は客引きの戦場で、クラスの出し物が書かれた看板を掲げた生徒達が正門を通ってやってくる来場者に向かって我先にと声を掛けていた。

因みにうちのクラスはあたしといっちゃんと深川くんと吉野くんの四人が客引き担当で、吉野くんの圧倒的ビジュアルのおかげで我が2-Bの売上は上々なのだとか。

まさに客寄せパンダと言うやつだな、うん。



「あの、すみません。2-Bの教室ってどこですか?場所が分からなくて…」



姿が見えなくなるくらい女の子達に囲まれている吉野くんの姿を少し離れた場所で眺めながら「午前の分のチラシも配り終わったし一旦教室に戻ろうか」といっちゃん達と話していたところ。

よく澄んだ綺麗な声があたしの鼓膜を揺らした。

声のした方へと視線を向けると、そこには一人の女性が佇んでいて。その人は華奢な肩と儚げな雰囲気が印象的な美しい人で、思わず見惚れて言葉を失ってしまった。

深川くんなんて「俺達のクラス2-Bなんです!今ちょうど戻るとこなんで良ければ案内しますよ!」と頬を真っ赤にしながらお姉さんに申し出ている。

あ。これ、あわよくばこのお姉さんとお近づきになろうって考えてるな。

深川くん、なんて浅ましいやつ。



「へー。みんなも2-Bの子なんだ。じゃあ、あたしの知り合いの子と同じクラスだね」

「そうなんですか!? え、誰だろー??」

「えっと、吉野翠くんって子なんだけど、」


「───羽依さん」