翠くんは今日もつれない【完】

学年で一番のモテ女浅井さんは、現在吉野くんに狙いを定めているらしく、休み時間の度に教室に現れては、こんな風に吉野くんに話しかけてアピールを重ねていた。

けれども、相手は難攻不落の吉野翠くん。流石の浅井さんも攻略にかなり手間取っているようだった。

吉野くんは普通の男子ならイチコロなあざとい仕草にも決して心揺らぐことなく、冷めた瞳で浅井さんを一瞥すると「嫌。」と、ただ一言拒否される。だけど、浅井さんは諦める素振りを全く見せずに、吉野くんに食い下がっていた。



「えー。翠くん、そんなこと言わずに貸してよ」

「……。」

「ねぇ、翠くん、聞いてるのー?」

「……。」

「っ、」



しかし、どれだけ浅井さんが話しかけても無視を続ける吉野くん。視線すら、浅井さんに向けることはない。

そんな吉野くんの態度に痺れを切らした浅井さんは「ねぇ、無視しないでよっ!」とイラつき気味に吉野くんの肩に触れようとするけど、吉野くんの肩が、す、と動いて、意図的に避けられる。



「───触んな。」



低い声と共によく研がれたナイフのように鋭利な視線が浅井さんに向けられた。その瞬間、教室の温度が-5くらい下がったような気がする。明らかな敵意を向けられた浅井さんは、肩を揺らして、後退っていた。



「えと、翠く、」

「てか、その呼び方やめてって前言ったけど、覚えてない?」

「……、」

「俺がそう呼ばれたいのは、ずっと一人だけだから。二度とその呼び方しないで。迷惑。」