お父様が管理する領地が増えたと知らされたのは、尻尾を巻いて帰った次の日のことだった。
しかも、お父様は喜んでいるとの話だったので、最初はリファルド様が本当にお礼をしたのかと焦ったけれど、すぐにそうではないことがわかった。
お父様が新たに任された土地は、多くの貴族が管理を放棄した土地で、治安がとても悪い上に、作物が育ちにくい場所だった。
私達が住んでいる国、エスコルン王国は領地の広さによって貴族に課される税金の額が変わる。
だから、お父様は支払う税金が莫大に増えたのだ。
しかも、治安が悪く、その場所を管理しようとした貴族が何人か不審の死を遂げている。
明らかに他殺なのに、証拠がなくて捕まえられない。
それだけ、悪が蔓延っている場所だ。
普通の人がその状態なら、気の毒に思うかもしれない。
でも、お父様の場合はそんな気持ちにならないのはなぜなのかしらね。
薄情な娘だと言われるかもしれないけど、お父様がどうなろうが別にかまわないと思ってしまう。
殺されろとは思わない。
というか、そんな人間にはなりたくない。
だって、私は生きている。
辛い思いを味わってほしいだけだ。
……って、この考えでも酷いわね。
とにかく、仕事が増えたお父様はかなり忙しくなり、私の所へ来る余裕などなくなるでしょう。
お母様も一緒に働くことになるだろうし、私にかまっている時間もないはず。
考えてみたら、夫婦揃って、ここまで何度も来ようとするなんて暇だと言っているようなものだし、仕事を増やされてもしょうがないわね。
いきなり領地が増えるだなんておかしいと思わなかった、お父様が悪いわ。
お父様は執念深いから、これで終わるかはわからない。
でも、なんとかなるでしょう。
お父様達が仕事に追われている間に、私が移動してしまえば良いのだから。
私はゼノンが働いている国で働くことが決まった。
リファルド様が仕事を見つけてくれたのだ。
他国までは、お父様もさすがに追いかけては来れないはず。
税金を納めるためにはお金がいる。
増えた領地の税金を支払うためのお金を工面するためには、他国に行く旅費なんてない。
居場所を知らせる気はないし、私が会いに行かない限りは、もう二度と会うことはないでしょう。
伯父様達とも中々会えなくなるのは寂しいけど、幸せになるためには両親との縁切りが必要だ。
私が離婚してから跡取り問題でも揉めているみたいだから、エイトン子爵家は没落する可能性が高いわね。
あんな人を跡取りにしたから潰れてしまうんだわ。
気持ちを切り替えて、隣国に住むための基礎知識が書かれた本を読んでいると、メイドが部屋にやって来た。
「サブリナ様、オルドリン伯爵からプレゼントが届きましたので返しておきました」
「ありがとう。いつも、ごめんなさい」
頭を下げると、メイドは「それも仕事でございます」と言って微笑んだ。
普通ならばやらなくても良い仕事をしてもらっているんだから、お言葉に甘えているわけにもいかないわ。
そう思っていたところに伯父様がやって来た。
「オルドリン伯爵が自分の姉と一緒に訪ねて来ている」
「……とうとう押しかけてきたんですね」
ため息を吐いた時、屋敷の外から声が聞こえてきた。
「サブリナ! 本当に悪かったよ! 反省してるんだ! 話を聞いてほしい! このとおりだ!」
最悪だわ。
アキーム様は私が彼と会わないとわかっているから、その場で叫ぶことにしたみたいね。
本当に迷惑!
「何なんだ一体」
どうしようか迷っていると、リファルド様が眉間に皺を寄せて、私のところへやって来たのだった。

