そんなの、気になる。気になるに決まっている。先輩がこんな話をしてくれるなんて滅多にないことだから、切り込むのなら今がチャンスだろう。


先輩の、知らない一面。


純粋に知りたいと思う。それは先輩がそうしてくれたように、私も先輩を応援したいからで。決してどうでもよくなったわけではないけれど、私の失恋の話は一旦置いておいて、今はただ聞いてみたい。

先輩は一体今、どんな恋をしているのかを。


先輩が好きになるひとは、きっと先輩みたいに素敵なひとなんだろうな。



「クラスのひと?」

「さぁ、どうでしょう」

「かわいい?」



そう聞けば、先輩のアーモンドアイが緩まる。そのひとのことを頭の中で思い浮かべているのか、元々のやさしい顔に甘さが足された。


それから「うん、かわいい」と。そのお砂糖たっぷりの顔でそんなことを言うから。自分が言われているわけではないのにドキリとしてしまう。


そうか、先輩はそんなにそのひとのことが好きなんだ。それが伝わってきて、勝手に口角が上がった。



「なんでそんな嬉しそうなのひお」

「だって! 先輩に好きなひとがいるなんて知らなかったから! 先輩がどんな恋してるのか気になって……」

「どんな恋、かぁ」



先輩の視線が地面へ落ちた。「俺も、ほぼ100パーセント叶わない恋かな」と、呟いた言葉も一緒に。


その瞬間心臓がきゅっとなる。だって叶わない恋、なんて。口の端っこがゆっくりと元の位置に戻った。



「……そうなんですか?」

「うん、そう。だから気持ちは隠してる」

「……そっか」

「好きだよって、本当は言いたいんだけどね」



そう言いながら、視線がこっちに戻ってくる。先輩の瞳に見上げられてなんだか切なくなるのは、その叶わない恋をしている先輩がどんな気持ちでいるのかを想像できてしまうからだろうか。