「そ、そんな見ないでください」
「ほんとにもう泣いてないかなって」
「泣いてないですよ、ほら」
無理やりではなく、自然と口角が上がる。先輩の顔を見ると、こうやって穏やかに笑える時もあれば、さっきみたいに安心して泣けてくる時もあって。
先輩のそういうところが、いつもすごいなと思う。どうしてなのだろう、まるで魔法使いみたいだ。
それにしてもじっと見られると恥ずかしい。だって今、絶対に顔がすごいことになっているから。
「ティッシュいる?」
「え、あ、欲しい、です」
「どーぞ」
「ありがとうございます……」
私が顔面を気にしているのに気がついたのか、先輩が鞄からティッシュを取り出してくれた。ほんと、そういうところだ。
ありがたく受け取ってから、スマホの内カメラを鏡の代わりにして顔を確認する。案の定化粧は崩れていて、目の下にはちょこちょことマスカラが付いてしまっていた。
それを貰ったティッシュで拭き取れば、どうにか最低限見られても大丈夫なくらいには直せた。
先輩の瞳を見つめる。「ん?」と首を傾けた先輩に、今度はなんだか切なくなった。
「どした?」
「……先輩に今までたくさん話聞いてもらったのに、全然だめだったなぁって」
「なんでよ。どこもだめじゃないよ」
「ううん。はは……どうしよう、これから」
どうしよう、なんて。普通の友達に戻る、その一択しかない。気まずくなるよりずっとマシだ。だけど星谷くんに対しての気持ちをまるっと消すことなんて──
「べつに、諦めなくてもいいんじゃないの?」
「え……?」
先輩の口から飛び出た言葉は予想外で、つい聞き返す。だってそんなこと、少しも考えたことがなかったから。
「なに、もう好きなのやめてって言われたの?」
「言われてない、けど」
「なら無理にやめる必要ないんじゃない?」
先輩はそう言うけれど、望みなんてきっとほとんどない。それに、相手を困らせてしまうだけなのでは。
「……先輩だったら」
「ん?」
「先輩だったら、どうする?」
やさしいやさしい先輩は、こういう時どうするのだろう。


