話している途中で浮かんでくる、あの日の星谷くんの顔。自分を逃げ道にしてほしかったと、その言葉に胸の奥の方がぎゅっと切なくなって仕方がなくなったのを思い出す。



「でもね先輩。不思議なことに、そのひとが好きなひとと上手くいかなかったのを聞いて、嬉しいよりも苦しかったんです。だから私は好きだよって、言いたくなっちゃったんだ。あなたのこと好きなひとがここにいるよ〜って」



そう、苦しかった。先生との幸せは願っていなかったはずなのに、私まで悲しくなった。

願えないくせに、好きなひとが悲しいのは苦しいんだ。



「はは、ひおはやさしいんだよ」

「ううん。結局前に先輩が言ってたみたいに、相手を困らせちゃっただけ。あーあ、時間巻き戻したいな〜。もし戻ったら……」



もし、告白する前に戻れたなら。

星谷くんが少しでも、振り向いてくれますようにって。私はもうちょっと、頑張れただろうか。



「ひお」

「、はい」

「もういいんじゃない、バイト終わったから」

「え……」

「ね」

「…………っう、ぐ……うぅ〜っ」



その声は、やっぱり頭を撫でてくれるみたいにやさしいから。

先輩には、どうして全部わかっちゃうんだろう。かけてほしい言葉も、我慢していることも。

先輩のひと言で、溜めていた涙が一気に放出される。失恋したかなしみと一緒に次々と流れていく。


振られた直後も、昨日あーちゃんに話を聞いてもらった時もこんなには泣かなかったのに。先輩の隣だとどうしてか私は思い切り安心してしまうみたいだ。だからもう、気の済むまで泣いた。涙が全然止まってくれなかった。

きっとぐちゃぐちゃですごい顔をしていただろうに、先輩はそんな私のことを少しも笑わないで、ただずっと隣にいてくれて。

そのやさしさに、また泣けてしまった。






「落ち着いた?」

「……はい」



涙がやっと止まった頃、先輩が口を開く。「そっか」とやさしく頷く先輩を見て、今度は急に不安になってしまった。



「……先輩、引いた?」

「え、なんで」

「だって泣きすぎたもん」

「引くわけないでしょうが」

「先輩、やさしー……」



だけどその不安はすぐになくなって、次はほっとする。そうやって私の気持ちが変わっていく間に先輩は立ち上がった。

それからこちらへ近づいてきて目の前でしゃがむと、そのアーモンドアイが下から覗き込んでくる。