「ごめん、八代」
「ううん」
「……ごめん、八代」
気づけなくてごめん。
傷つけてごめん。
気持ちに応えられなくて、ごめん。
何度も首を横に小さく振る八代は、きっと無理をして笑っている。それを見てどうして、と思う。だって俺はそんなふうに笑えなかったから。
強いんだ、八代は。俺よりも小さいのに、俺よりも強い。
「大丈夫だよ。最初からわかってたもん」
泣かせているのは自分で、涙を止めてあげられないのも自分。それなのに、八代とはこれで終わりたくないと思ってしまう。
勝手だ。まだ友達でいたいなんて。それを決めるのは、俺じゃないのに。
それでも伝えなければ、後悔すると思った。八代が目の前から消えてしまうのは嫌だった。それぐらい、俺の中では大きな存在になっていた。
「……八代」
「うん」
「もし……八代がよければ、これからも……」
「……友達で、いてくれる?」
だけど結局八代にそれを言わせてしまって、それでいて八代も同じ気持ちなのだと安心してしまった俺は、本当に情けなくて弱い。
「うん……友達でいたい」
「は〜、よかった……! 星谷くんと話せなくなるの、嫌だし。それにほら……もっと本教えてほしいし」
「うん、それは俺も」
「ほんと? じゃあ、これからもよろしくね」
八代が目に涙を溜めて笑う。わかっている。その笑顔はただ顔に貼り付いているだけで、本当はその下は傷だらけなのだということ。
それでも気づかないフリをして、微笑むことしかできない。だって俺は慰めることができないから。
俺にとっての八代のように、八代にとっても話を聞いてくれるような、そういう誰かがいて、どうかその誰かがその涙を拭いてやってほしい。
俺には、そんなことしか願えない。


