願うなら、きみが






八代の手が離れていく。逸れない瞳を見て、どんどん理解していく。


八代が俺のことを、好きだってこと。


正直驚いている。こんなこと、これまで1度も想像したことなんてなかった。だって八代は、いつも俺の話を──



「……ごめん、星谷くん」と、必要もないのに謝った八代の目からはついに雫がこぼれた。拭ってあげたい。だけど、俺にはその資格がない。


だから今の俺には、八代の言葉をひとつ残らずすくって、丁寧に会話をすることしかできなかった。



「なんで謝るの」

「だって……私、本当は最低だから」

「どこが、」

「星谷くんの幸せを、こころの底から願ってなかったから」



「ごめんなさい」と、八代はまたそう言った。それを聞いて、今までのことを思い返す。たぶん、いや、きっと、俺は八代に散々なことを言ってきた。


棘なんてないのに小春ちゃんの言葉に傷つけられてきた俺と同じように、八代も俺の言葉に傷ついてきたはずだ。

どの言葉でとか、どんなふうにとか、そういうのはひとつもわからないけれど、くるしい思いをさせたことだけはわかる。


だってそれほど、俺は八代に小春ちゃんの話をして、聞いてもらって、そのたびに楽になって。


あぁ、そうか。八代も俺と同じで、俺も小春ちゃんと同じだったんだ。気持ちが通じ合わなくて辛いのは俺だけじゃなかった。それは八代もそうだし、小春ちゃんもだ。



どうしてこんなにも上手くいかないのだろうと、胸が締めつけられるように痛む。



俺の幸せを願っていなかった、なんて、正直にそんなことを言われたって、腹が立つことも悲しくなることもないのは、紛れもなく今までそんな八代に俺が救われていたからだ。


謝りたいのは八代、俺の方だよ。