願うなら、きみが






何に対しての謝罪なのか、全く検討もつかなかった。



「ごめんって、何が……?」

「……聞いちゃったの、先生に」

「え」

「だから知ってた。ごめんなさい、勝手に」



八代の話によれば、何があったのかを全部知っているフリをして、小春ちゃんからあの日のことを聞き出したらしい。

それぐらい、俺が休んでいたことを心配してくれていたってことだと思う。

びっくりしたけれど、それよりも小春ちゃんが俺のことを少しでも気にかけてくれていたんだってことが嬉しい。

……なんて。もう意味ないのに。



「……ごめん、本当に」

「なんで謝るの? 八代は悪いことしてないよ」

「でも……」

「八代が聞いてなくたって、今日こうやって話すつもりだったし。結果は同じだから気にしないで」

「……わかった」

「うん」

「…………星谷くん、大丈夫?」

「まぁ……この前よりは」



ずっと小春ちゃんだけを見てきた。大丈夫かどうかなんて、正直よくわからない。だって俺は失恋からの立ち直り方も知らないから。

曖昧な答えを投げれば、八代の顔がほんの少し歪んだ。



「ふ、八代の方が悲しそう」

「、ごめん…………こういう時、なんて声をかけるのが正解なのかわからなくて」

「何か言葉が欲しいわけじゃないよ。ただ、聞いてほしいだけ」

「聞くだけでいいの?」

「うん、それだけで助かる」

「……なら、いくらでも聞くよ」



本当に、それだけでよかった。それだけで俺は胸をやさしくさすられて、慰められているような気になる。

だからなのか、自分の口からどんどん言葉がこぼれていく。



「本当はさ、俺を逃げ道にしてほしかったけど、そんなの烏滸がましいにも程があるよね。最初から俺のことなんて眼中にないのわかってたのに」

「、そんなこと……」

「でも……伝えられてよかった。タイミングは最悪だったけど、それでもいつかは伝えたかったから」



もっと温めておけたら。2年後に伝えられていれば。

なんて、たらればを考えたって仕方ない。これが運命で、これが全てなのだから。



「……大丈夫、だよ」

「大丈夫?」

「…………星谷くんのことを好きなひと、絶対に現れる、から」

「なに、急になんかすごいこと言ってくれるね。まぁ、どうだろ」



八代が切なげにそんなことを言う。他人のことなのにそんなふうな表情になれるのも、その言葉も、この時は八代のただのやさしさなのだと思っていたから。


ありがとう、って、笑ってそう返した。